将来の夢
小学校の卒業文集、私は将来の夢というタイトルで書いていた。内容は単純明快、「何やっても向いてるとは思えないからこれから見つけていく」。当時から近代文学に傾倒していたので妙に気取った文体で、それゆえに馬鹿を露呈するものだった。
それから10年経った22歳の夏、私は会社の偉い人にファミレスに呼び出されて「将来の夢は何か?」と聞かれた。激務と持病の悪化で心身ともに参ってしまい、飛び降りを企てた矢先のことだ。
ちゃんとした大人になること、と私は答えた。
「入院や手術をしなくて済むくらいに元気なこと。必要なものを我慢しなくて済むこと。他人に迷惑をかけず、もし迷惑をかけたら相手の迷惑を許すこと。これができる大人になりたいです」
完全に出まかせだったのだけど、思いのほか筋の通ったものになって自分でもびっくりした。偉い人も、まさか「身投げしそうな社員がいるから話を聞いてやって」と頼まれて会った奴からこんな就活生ばりの解答がくるとは思わなかったろう。
でも、これはきっとかなり頑張らないと叶わない夢だ。