撒き餌話法
手品の技法で「客に自分の狙ったカードを取らせる」というものがある。客は自身の意思でカードを選んだつもりなのだが、実はそれは手品師が仕掛けをして選ばせたものである、というもの。
私は手品はできないのでこの技法を学ぶところまでいかないのだが、「大学の研究発表のときに狙った質問をさせる」ことは多々あった。というのも発表内容の中から意図的に穴や疑問点を設け、聞いた人が引っかかるようにするだけ。
その穴や疑問点にちゃんと答えを用意していれば発表後の質疑応答も怖くない。何度か使ったが在籍中はバレたことがない(はず)。
ただ、これは真剣に聞いてくれた人にはめちゃくちゃ失礼だったと思う。あーこいつの論文穴だらけだ指摘してやろう顔真っ赤にするかなと煽り目的で質問してくる奴ならいざ知らず、興味を持って時間を使いメモを取ってまで発表を聞いてくれた人には馬鹿にしている以外の何物でもなかった。
予想外の質問に慌てたくないというチキンハートと質問者を叩きのめしたいという傲慢だけを優先し、誠心誠意取り組んだ研究の成果を披露する目的は後回しになったからだ。
閑話休題。
日常会話や雑談で会話の主導権を握りたいけど「ねー聞いて私ね私ね」と相手の話を全部ぶっちぎって会話の流れをもぎ取るのはさすがに遠慮するのか、先程の技法のように「自分のしたい話題を相手に出させる」ことをしてくるタイプの人間がいるのだ。
仕掛ける側からすればこれ(めんどくさいので以後撒き餌話法と呼ぶ)とっても楽。相手がその話題を出せば「もー仕方ないなぁ」って一見相手に主導権があるように話せるし、「そういえば思い出したんだけど~」とさも今まで忘れていたんですよ風に話したくてたまらなかったことを嬉々として口にできる。
撒き餌話法の何が嫌かというと、話相手をサンドバッグ状態にするところだ。相手との会話を楽しむのではなく自分の言いたいこと話したいことを一方的にぶつけ、自分だけが気分良くなれる。
これが玩具を使用したソロプレイなら問題無いが、相手は人格と感情を持った人間なのだ。会話でもアーン♡な行為でもこちらの反応はガン無視で勝手に相手だけ盛り上がってたら冷めてしまうだろう。冷めなかったらよっぽどメンタルが強いか、最初から話をまともに聞いてないだけだと思われる。
私は撒き餌話法を使われても話が面白かったら別に気にならないが、経験から言って撒き餌話法を多用する人間の話は大抵つまらない。
そもそも話が面白いというのは話し方が上手いということでもあり、話し方が上手いのならわざわざ撒き餌なんかしなくても会話の流れでさらっと話せたり相手から聞かれたりするのだ。撒き餌してる時点でもうお察しである。
あとは相手にマウントを取りたいのだろう。相手を赤べこのごとく黙って首を上下させるだけの存在にしたいのだから。この場合はほぼ確実に自慢目当てで撒き餌話法を使ってくる。
クソつまらない上に長くてオチのない話をわざわざ撒き餌するくらいなら、最初から「ねえねえ聞いて」で話しゃいいんじゃないだろうか。
何でわざわざ裏工作して会話の主導権握りたいんだろう、「今から私が喋りまーす!」って宣言すればいいのに。
最近撒き餌話法の撒き餌を完全にシカトし続けてみたことがあるが、最後はキレられて口に無理矢理餌押し込まれるみたいにして強引にマシンガントーク聞かされたので本当にまいっちんぐ。
今度撒き餌話法されたら「えー最初からこの話したかったんじゃん遠回しに言わなくていいよー!」の『池の水全部抜いてみた』話法でいこうと思う。